録音2-道路警備・観察・テザーの気づき

録音2 道路警備・観察・テザーの気づき

取材対象: 鴨下琳斗(りんと)
聞き手: 森田
状態: 修正済み最終版


九十九里のスイムについて(補足)

九十九里がね。スイムの後ランがちょこっとあるんだよね。上がったところからトランジションまで距離があるんだよね。スタートは砂浜から。ローテーションスタートですね。

練習の時は、海だからさ、みんな蹴られる蹴るが当たり前だから気にせず泳ぐように言われた。フィジカル強い人は前に行っちゃうけどさ。私は後ろについて。蹴られながら行きました。私も蹴ったと思うけど。

配置場所について

森田: 写真の話からですが。

琳斗: ランコースのこの橋から象の鼻テラスあたりまでが担当で、俺が警備してた場所からの「私の見てる風景」っていう感じで撮ってる。いつも大体。私の目に入ったものを撮ってるだけなんだよね。

だいたい橋の真ん中から、象の鼻の手前までぐらいの間に、等間隔に立っててくださいって言われた。スタッフと選手以外は通さないのが仕事。

この辺は一応地元だから詳しい。仕事で、ワールドポーターズとかコスモワールドとか、キッコネの仕事で子供を連れて行ってたからね。

現場に着いた時の第一印象

森田: 現場に着いた時、最初に見えたもの・聞こえたものは何ですか?

琳斗: 警備する場所について、最初に見えたもの……立ってた向き的にはこっちだから、視覚的に、木が見えるな、空が見えるな、海が見えるな、ぐらいかな。

森田: それは、琳斗的には何の意味があるの?

琳斗: いや、別に意味はない。目に入ったものを口に出しただけ。

コースを走ってる人を見て、猫背だなとか、足が上がってないなとか、道路警備はそういう仕事じゃないから。それに、そもそも、早朝だったから、ほんとに人がいなかった。無観客だった。無観客試合だった。普通の五体満足な方々はいっぱい走ってたから、その応援の人はいたにはいた。熱狂的な人がいて手を振ってたけど、そのぐらいだよね。

観客の様子

森田: 観客はいた?

琳斗: パラの時間帯には来なかった。「こんな微妙な場所には来ないのかな」って。車もいなくて静かな中、選手だけが走ってくる。クラッチ(松葉杖)の人は普通の人と同じスピードですごいと思った。でも、競り合ったりはしなかった。

森田: それを見てどう思う?

琳斗: ボランティアの方が圧倒的に人数多いからね。リーダーの指示通り応援した。「朝はいないので応援がメインになりますね」って言われたから、「頑張れ」とか「ファイト」とか。10時半くらいまで頑張って声を出してた。ボランティアの中には出してる人と出してない人もいたけど、離れてるから声が聞こえないだけかもしれないけど、まあボランティアにもいろんな人がいたって感じ。

審判・監視員について

琳斗: 道路にはお揃いのTシャツと帽子を被ったボランティアが並んでる以外に、オフィシャルというか監視員・審判員みたいな人たちもうろちょろしてた。結構人数がいた。

森田: 国際ルールだから、ショートカットとかするような不正がないように、ちゃんと監視がいたんだね。市内を巡る複雑なコースだからね。

琳斗: 最初の方の大会で、周回をカウントミスしたことがあったんだよ。監視員側のミスで、それで失格になったり順位が変わったりして、ちょっとかわいそうだった。多分JTU(日本トライアスロン連合)側の痛恨のコース誘導ミスだったと思う。

印象に残った出来事(警察犬)

森田: 最終的に印象に残ったことはある?

琳斗: 警察官がおそらくテロ対策のわんこ(警察犬)を連れたお巡りさんが周回してたから、私は犬に「こんちはー」って挨拶しといた。

森田: 警察官には?

琳斗: お疲れ様ですって言って挨拶した。私はテロ対策だと思った。シェパードを連れた男女の警察官が4、5人一緒にまじめに歩いてた。あれは本当にただ巡回してただけかもしれないけど、国際大会だし一応念のためにテロ対策でやってるのかなって思ったけど、ただのお散歩だったかもしれない。

その他は……音について……車を止めちゃってるから、しーんとして静か。ほとんど音がしない感じだった。

道路の白線(コーンの間隔)について

森田: 道路にカラーコーンを並べる作業もしたんですよね?

琳斗: うん。10メートル間隔に1個って言われたんだけど、大会の人も正確な置き方をよくわかってなかった。それで、白線(道路標示の破線)の長さを調べてみた。一般的に、白い部分が10メートル、空いてる部分も10メートルらしい。国がやってる道路標示には決まりがあるはずだから、調べれば絶対出るだろうと思って調べたら、案の定その通りだった。

森田: マジで? 琳斗のその頭の良さってどこから来るの? 普通そんなこと思わないよ。

琳斗: 「何メートル」みたいな決まりがきっとあるだろう、調べればわかるだろう、って思っただけ。

森田: それがすごいんだって。みんなわかんないよ、それ普通は気づかない。

琳斗: ちなみに高速道路だと、もうちょっと長さが変わって18だっけな、もうちょっと長くなるらしい。

森田: 観察したものをどう分解して理解するか、っていう経験があるんだね、琳斗には。普通は「へー」で終わるところを、「10メートルなのか」って深掘りしたくなる。「規則性があるはずだ」っていう思考回路になる。すごいじゃん。名探偵コナンだね。

琳斗: そうかな。そういうことなのかな。まあ、道路の白線の知識が増えました。

余談:着ぐるみ・宣伝広告

今日映画館の前で森田さん待ってたけど、コナンのパネルがあって「まだやってんだな」と思って。まあコナンだからなあってのはあるけど。あとは、水上バスにも広告がまだ貼ってあって、長いなと思った。横浜が舞台だからかな。

テザー(命綱)の持ち方について

森田: その後の応援で印象に残ったのは何ですか?

琳斗: テザー(視覚障害の選手と一緒に走るガイドランナーをつなぐロープ)の色は、あまり目に入らなかった。記憶に残ってないから、それほどキツい色ではないと思う。太さや長さはどうだったか覚えてないけど、キツい色でも細ければ目に入らないし、遠いと見つけにくい。実際、ボランティアの中にはパッと見て見つけられない人もいたから。

森田: それは(視認性として)悪いってこと?

琳斗: 目は悪いね。2人で走ってる組を探すんだけど、見つけにくかった。二人で走ってる人はテザー使ってるだろうなって推測した。腰にテザーを巻いてる人もいる、っていうのを森田さんが教えてくれて。

森田: じゃあ、その「工夫」に気づいたのはどういうきっかけ?

琳斗: 人によって違う、パートナーによって違う、つなぎ方(持ち方)が違うのを見つけた時かな。持ち方というか、場所が違うことがわかっただけだけど。なんとなく違うんだな、っていうのは感じた。

森田: その「何かを見つけた瞬間」に至るまで、数分間何を見てたんですか?

琳斗: まあ、これはパラトライアスロンで障害者だからわかんないけど、トップアスリートって速さを極めれば大体みんな同じような走り方になってくるじゃないですか。「こう繋いだ方がいい」「こう走った方がいい」みたいに、だんだん画一化されて固定していく。そうなってくけどそれに「多様化」が起きてるってことは、「その限りじゃない」って可能性があるんじゃないかな、と思った。

「ベストプラクティス」についての考察

森田: つまり、「速く走るための、決まった有利な持ち方・走り方があるはず」と推測したってこと?

琳斗: いや、単純に「速さ」だけの話じゃないと思う。長時間のレースだから、辛いやり方より楽なやり方を選んでる可能性もある。どこに重きを置いてるかが、人によって違うんじゃないかな。「速く走りたい」っていう人はやり方が似てくる、一緒になっていくかもしれないけど、「ゴールすることが目的」っていう人は、多少スピードが落ちても楽なやり方を選んでるかもしれない。そういうドラマが見える気がする。そういう感じかな。

森田: それって、ただ観察してるだけじゃないよね。

琳斗: どう使えば速いのか私は知らないよ。「合理的な理由があってその持ち方をしてる」っていう前提で見てる、っていうこと。

森田: 実力も結果もわからないのに、なぜそこまで想像(妄想)が膨らむのか。

琳斗: うん、選手のことは全然知らない。てんでバラバラに見えた。うーん、答えは一つじゃないってことかな。一言で言うと。

「答えは一つじゃない」という哲学

琳斗: 「学校に行くのが正解とは限らない」とか。学校に行ったらいじめられて、病んじゃう人もいるからね。

ディスレクシアと観察力について

森田: 琳斗はディスレクシアで、観察する力があるっていう話だけど、目自体は良くないわけだよね、前提として。

琳斗: まあ、斜視だからね。

森田: へー、って今感心してるところ。要するに、いつも物事を観察して「探してきた」から見る力が単純についた、って思ってたけど、それだけじゃなくて、見たものの意味をすでに考えてた、っていうことなのかな、って思った。だからコナンみたいになったのかな。要するに、推理してるってことだよね。

琳斗: そこまでの超能力にはなってないけど、いろんな人に心眼、心眼って言われるよね。「人の心が読める」って。

森田: 今の現象も、物理的には見えてないのに、紐がつながってるであろうことを推測して、紐を見つけて、その紐の持ち方が違っている状態を見て、「色々な工夫があるんだろう」って考える。って、普通なんないだろ。

琳斗: えええ! えええー! だって、国が決めて道路作ってるわけじゃないですか。理由は国だから。誰でもできるように考えてるはず。

「健常者の発想」との対比

森田: 琳斗のそのプロセスがおかしい、普通じゃない。なんでそれ見て「10メートル」って思うのか、その仮説の立て方からおかしい。だって、国が道路を作ってるわけだから、何も考えずに作ってるわけじゃない。国土交通省の役人がきちんと決めてやってるはず、っていうのを推測できるのがすごいなって思う。実際に調べて答えがわかるならわかるけど、推測できるのがすごい。

琳斗: だってオフィシャルの人ですら、「適当にこの辺だろう」って置いてるんだもん。みんなオフィシャルに聞いても「この辺だろう」「こっちだろう」って感じでやってる。

森田: それが「普通」だってことも、琳斗自身知ってるんでしょ。人よりものを観察していて、人よりものを知っていて、それを導き出す能力を持っている、っていうことだよね。

琳斗: そうとしか思えない。みんなスマホで調べれば「10メートルって決まってるらしいよ、道路交通法で」ってわかるはずなのに、それをしないでこんなもんだろうって置いてる。

森田: 測る道具がなければ「10メートル間隔に置け」と言われても正確には置けない、っていうのが前提で、「こんなもんだろう」で済ませてるんだよね。それが人間の普通の発想。自分の能力の限界を超えたら、もう「仕方ない、俺は悪くない」って終わらせちゃう。

メジャーやレーザー測定器があれば10メートルきっちり測れるのに、ボランティアにはそんな設備はない。「無理だよ、俺たちにどうやって10メートル測れって言うんだよ」って思っちゃう。それが健常者の典型的な考え方なんだろうね。

視覚障害への偏見について

森田: 大体、「自動車に乗れるわけない」みたいな思い込みもあるよね。視覚障害があるのに「全盲です」とSNSに投稿した人が「そんなわけないだろ、どうやってiPhone操作するんだよ」「なんでXに投稿してんだよ」「嘘つくんじゃねーよ」って炎上した、みたいな話もあるし。実際は、できることを示す動画とかもあるのに、それでも信じない人がいる。「絶対やってない」「ズルしてる」「本当は見えるんだ」「年金もらってずるい」みたいな話になっちゃう。そもそも発想がない。

今日、琳斗にそういう才能があったんだ、ってちょっとわかった。

琳斗: 視覚障害がある人たちは、目の前にあるもの、今触ってるものが「何だろう」って考える力が育まれるんだと思う。だから、視覚障害の人たちは面白い人が多いんだよね。物をよく考えてる。

森田: 自分の頭の中で考えないと生きていけないから。ちょっと買い物するだけでも困るからね。わからないお店に行けない、商品がどこにあるかわからない。それを親が全部やってあげちゃうと、一生何もできなくなる。施設にいる人とかを見てると、それを感じる。逆の意味で、世話する人がいなければ、違った人生になってたかもしれない、っていうのは、琳斗と同じような話だよね。


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